これからの医療と、
わたしたちの働き方について
-医学部学生たちの本音のトーク-

2020年の冬、プログラミングやデータの活用に注目して勉強中の、京都大学医学部の医学部学生たちにお集まりいただき、座談会を開催しました。
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻の大学院生(臨床統計学)にもご参加いただき、今後の医療や自分たちの働き方がどうなっていくのかをテーマに熱く語っていただきました。

クロストークメンバー

医学部学生

  • 柿原知人さん

  • 岸晃生さん

  • 新野一眞さん

  • 武信弘一郎さん

  • 松本慎太郎さん

  • 宮脇里奈さん

医療系大学院生

  • 瀬川英美子さん
    医療系大学院生(臨床統計学)

医師
(ファシリテーター)

  • 木村丈
    解析企画部 部長

※2020年1月時点

これからの医者がどうあるべきと思いますか?

  • 現在、臨床実習で末期がんの患者さんの診療に関わっています。
    他の診療科では既存のガイドラインのリサーチなどを行っていましたが、ここでは人と人との人間的なつながりを大事にしており、そこにやりがいを感じています。
    エビデンスも大事なので、ガイドラインを調べることも重要なことだと理解していますが、人間的な関わりを重視することもこれからの医師に求められることだと思いますね。

  • 木村

    確かに、これまで医学教育ではempathy(共感・思いやり)という概念は軽視されていましたが、最近国際的に重要視されてきています。
    ただ、最善の医療を提供するためにはエビデンスの調査・理解が不可欠でそこに時間を取られることも事実です。
    インターネット・オンラインジャーナルの発展により、出版論文数は指数関数的に増加しており、各医師が専門領域だけでもすべてのエビデンスを把握するというのは困難な状況になっています。
    我々リアルワールドデータは、患者さんの既往歴・内服薬・検査値などの情報を入力することにより、過去の文献と組み合わせて治療や検査をリコメンドするような機械学習・人工知能アルゴリズムを開発することにより、医師の負担軽減を行うことがこの問題に関する一つの解だと考えています。

  • そういったアルゴリズムの利用者としてだけではなく、実際に開発者として関わることにより、医療に貢献できればという思いがあります。

  • 瀬川

    医療を直接提供する立場になることはないので、こういう医療環境になったらいいなという理想になりますが……いままで治らなかった病気がなおるというよりも、早めに介入して予防するということが大事になってくると思いますね。
    病気じゃない人が気軽に相談できるような場が欲しいな、と。

  • 木村

    ちょっとした相談が気軽にできないという問題はありますね。その一つの解決方法として医療相談アプリがあります。
    リアルワールドデータで直接の事業は行っていませんが、医療相談アプリを提供している会社とのパートナーシップを検討しています。

  • 宮脇

    私は、これからの医師キーワードとしては2つあると思っています。まず、選ぶ力。医師はもちろん文献を選ぶ力が必要だし、患者にとってもインタネットー上に溢れている情報が間違ったものを含めて多すぎるので、選ぶ力が必要かと思います。
    2つ目は融合する力で、医者としてずっとやっていくと、自分が専門の狭い分野にのみ知識が偏ってしまうなどして、視野が狭くなっていくと思う。

  • 木村

    いずれも非常に大事な問題だと思います。 前者に関しては某社の不正確なキュレーションの問題などが記憶に新しいですね。
    ただ、この問題以降、非ヘルスケア企業がヘルスケアに関する情報を収集・利用する際に、情報の信頼性や集め方がより重視されるようになってきていると感じます。
    実際、アカデミアの人間が普段研究で行っているようなPubmedによる文献検索やクオリティの高い系統的レビューに近いような作業を委託で受けることもあります。
    医学研究で培った知識や文献検索法がそのまま社会でも求められているんだと実感しています。
    後半についても大事な視点です。医者としての能力だけで100万人に1人の人材となるのは大変ですが、たとえば、医学で1000人に1人、IT知識で1000人に1人の知識をそれぞれ身につければ掛け算で100万人に1人の人材となります。
    そうすると、替えの効かない貴重な人間になれると思います。

  • 松本

    私が臨床実習で実感するのが、本当に医者は書類仕事などの雑務が多いということです。それをテクノロジーでなんとかならないかと思っています。

  • 木村

    高齢の初めて外来に来られた方の内服薬だったり、既往歴だったりを聴取するのも本当に大変ですよね……それだけで30分かかってしまったり……。
    その解決策の一つとしてはPHR(personal health record)があり、個人個人が自分の診療履歴やデータを自分自身のスマートフォンの中に、実際にはクラウドで管理されますが、持ち歩くというものがあります。
    既往歴や内服薬なんかは口頭で教えてもらうよりもスマートフォンで見せてもらったほうがより正確だし、スマートですよね。
    リアルワールドデータではPHRアプリの開発も行っています。現在は学校健診情報、乳幼児健診のみですが、近い将来、医療機関のデータもそこに繋げたいと考えています。

RWD-DBを利用した医療機関のアウトカム比較について

  • 武信

    僕の祖父が地方で治療を受けていた時に気づいたのですが、都市部と地方では医療の質が異なる可能性があると考えています。
    医療の質を均質化をはかるため、診療ガイドライン等の最新情報のエビデンスを参照できる仕組みが必要などではないでしょうか。

  • 木村

    実際にRWD-DBのデータを使って、医療機関同士でアウトカムを可視化・比較してみると、イメージと実際のデータが大きく違うことがよくあります。ファクトベースで考えることが重要ですね。

  • 武信

    そういったデータを公開することはできないのでしょうか?

  • 木村

    現在はリアルワールドデータが解析した医療機関の情報を公開するなどは行っていませんが、近々そういったことが求められるようになってくるかもしれません。
    日本では国民皆保険制度の財政状況が良くないことは以前から指摘されていますが、諸外国では、データを使ってかかる医療費とそれによる治療効果のバランスで公的保険でカバーできるかどうかが決定されている国もあります。

  • 武信

    なるほど。良い医療をしているところが報われるような医療制度ができれば良い、それに貢献できればと思いました。

  • 木村

    その通りですね。その基盤となるデータベース・インフラづくりをRWDとしては取り組んで行きたいと思っています。
    データベース構築となるとなんとなく、プログラマーじゃないと難しい、ITリテラシーが高くないとだめなど思いがちですが、そういったスキルがなくてもできる仕事はたくさんありますし、入社後にプログラム勉強されて業務で使っている社員もいますよ。

医者以外のキャリアについて

  • 新野

    医学部学生の中で医者の未来は暗そうという雰囲気があります。過重労働問題とかもありますし。
    卒業後、最初から研修医せずにビジネスの世界に進みたいという人もいる。
    京大医学部の同窓会で医師以外の職業を選んでいる人、たとえばコンサルタントや起業を選ぶ人だけの同窓会もあるぐらいです。

  • 木村

    医師としての臨床経験がその後のキャリアの役に立つという意見もあるので、卒業後すぐに別業界に飛び込んでしまうのはもったいないかもしれませんね……。
    ただ、卒後10年、20年と立ってくると初期研修のころの医療の常識が非常識になっている場合も多々あるので、その2年間すらもったいないと考えている医師もいます。

  • 松本

    研修医はやりたいと思いますが、エビデンスに従って医療をするだけの医師にはなりたくないです。

  • 木村

    卒後すぐに医師以外のキャリアを選んで、その後10年以上経過して医師にもどることは可能だと思いますが、逆は現実的に難しいでしょうね。
    製薬企業など医師としての経験が活かせる転職先は例外ですが。

  • 新野

    将来は医療現場の課題を抽出して、医療器具とか、なにかしらのプロダクトで解決策を提示していきたいと思っていますが、自分一人で全ての領域をカバーするのは難しいので、 いろんな業界の人とコラボできるベースの知識を持っているのが大事だと思います。
    具体的な例としては、パーキンソン病の動きを薬で止めることはできないけれど、医療機器によってものを手でつかめるようになってQOLが上がるなどあります。
    こういった仕事をスムーズにしていくためにはいろんな業界の共通言語を理解している必要があると感じています。
    医者を最初はしばらくして、自分で起業をしてもいいし、健康に関われるビジネスや研究に関わってみてもいいかなと思っています。

  • 木村

    皆さん、長時間ありがとうございました。リアルワールドデータでは、将来の医療や社会を予測して、将来の糧となるデータベースの構築や医療現場への貢献に日々真剣に取り組んでいます。
    臨床現場や伝統的な基礎研究だけでなく、我々のような取り組みも今後ますます重要になっていくことを医学部学生や医療系の大学院生たちにももっと知っていただければと思います。
    では、懇親会に移動してさらに盛り上がりましょう!